たねづけのティッシュ箱

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【アイマスSS】今夜月の見える丘に【月岡恋鐘】

初めてSSを書きました。月岡恋鐘のSSです。個人的な解釈及び妄想がかなり入ってくるので読む際には注意してください。

 


例えばどうにかして君の中入っていって――


「相手に気付かれずに影を踏めば、相手の心に入り込める」


そんなことをどこかで聞いた。あなたに試してみた。結果はどうだったかわからないけど、あなたと笑い合えたからそれでいいかな。


どうしてあなたと一緒にいたいのだろう。

あなたと笑い合いたいのだろう。

私はアイドル、あなたはプロデューサー。

一緒にいると暖かい気持ちになる。

アンティーカのみんなと一緒にいる時とはまた少し違う、何か。


小さい時から周りからは長崎1番の美人だと言われてきた。自分でも自信はあるし、綺麗になる努力はしてきたつもりだ。


けどたった1人、どうしても自分を認めてくれない人がいる。


父だ。


親に褒めて欲しい、そんなごくごく当たり前の感情を抱いていろいろやってみた。

料理だってそうだ。ただ「おいしい」の一言が欲しくて、必死に必死に練習した。


けど、何も言ってはくれなかった。


どうして私を見てくれないのだろう。一緒にいても話さない。何か話題を振ったところで素っ気ない返ししか帰ってこない。


私はただ、普通の親子になりたかった。一緒に笑い、小さなことで褒めてくれ笑顔が絶えない、そんな親子。


そんな父と最後に話した、というより喧嘩に近いけど言葉を交わせたのはアイドルを目指すと言った時。


面食らった。なんで今まで私を見ないような行動をしてきたのに、アイドルを目指すなんて言ったら大反対なんだろう。


友達は応援してくれたし、母も賛成してくれた。もしかしたらこれで父も自分のことを応援してくれるんじゃないか、そんな淡い期待さえしてしまっていた。


そして私は家を出て東京に、オーディションを受けに出て今ここにいる。


だからなのかな。大人の男の人に褒めて欲しい。自分を見て欲しい。認めて欲しい。笑顔でいて欲しい。そんなことを考えてしまっているのかもしれない。


理想の父との関係の影をあなたに写してしまう。あなたとの交わす言葉、見る景色、隣にいる時間全て私が欲しかった暖かさをくれる。


その瞳から私を覗いたらいろんなことちょっとはわかるかも。


たくさんの暖かさをくれるあなたに愛を感じてしまう。愛すれば愛するほど喜び、父を重ねてしまう罪悪感のようなものが霧のようになって迷い込んでしまう。


考えないようにしよう、とは思っても少し考えてしまうこともあって――


「プロデューサーさん、ストロベリームーン、って何ですか?」


事務所へと意識を連れ戻したのは元気な声色をした果穂の声。聞き慣れたワードと、聞き慣れないワードに思わず耳を傾ける。


「あぁ、確か赤く見える満月だったかな。最近ニュースでも言ってるからな」


赤く見える満月...?そんなものがあるんだ。


「わぁー!すごいです!見てみたいです!」

「見ると恋愛成就する、とかいう言い伝えもあるな。いつ見れるのか調べてみようか...」


恋愛成就。ロマンチックな響きだ。叶うなら、あなたと...と思考が巡ってしまい無理やり意識を引き戻す。モヤモヤする。この感情はなんなんだろう。


「今週の金曜日だな。その日は...恋鐘の雑誌の撮影で一日中外にいるな。」

「そうなんですか!プロデューサーさんとみんなで見たかったです...」

「離れててもみんなで同じものが見れるならそれでいいじゃないか。」


離れてても同じもの...それって何?

ってあれ?私と撮影で一緒...?


「プロデューサー!ウチストロベリームーン見たか!」

咄嗟に大声を上げてしまう。

「わっびっくりしたー。撮影の後は仕事も無いし、せっかくだし行くか!」

「わ〜い!楽しみば〜い!」

嬉しい。ただただ嬉しい。あなたと一緒のものが見れる。

「わぁー!プロデューサーさんも、恋鐘さんもみんなで見れます!」

「そうだな!俺も楽しみになってきたよ」


さっきまで悶々と考えていたことは全て吹き飛んでしまった。金曜日が待ち遠しい。


帰路に着いてからもずっと月のことを考えていた。思えばこんなに月が楽しみなのは生まれて初めてかもしれない。その日はよく眠れなかった。


―そして金曜日が来た。


目を開き、カーテンを開ける。日差しが眩しい。この眩しい光が今夜の月を彩ってくれるのだと考えただけでワクワクが止まらない。


何を着ていくか悩みに悩んだ途中で気付く。

今日雑誌の撮影だった。衣装を着ていかなければならないのを完全に失念していた。


事前に渡された衣装を急いで拾い上げ、袖を通して鏡の前に立ち、軽くチェック。

多分大丈夫―

遅刻は絶対いけない。今日だけは特に。

2人でいられる時間が少なくなってしまう。


忘れ物はきっと無いと自分を信じて勢いよくドアを開け、事務所へと向かう。底の高いサンダルは走りづらくて転びそうになるも何とか踏みとどまる。

早歩きにしよう。


「ふぁ〜!間に合った〜!」

「おはよう、恋鐘。いいタイミングだな。準備してすぐ出ようか」

「うん!」


事務所をぐるりと見渡すと放クラの皆と千雪が作戦会議をしていた。どうやら智代子主導でお月見用の団子を作るらしい。


皆とお月見したかった、という気がしなくもない。また次回、私の腕を振るう時はその時。今はまずお仕事。


作戦会議をしていた皆が一斉にこちらを見て、行ってらっしゃいと大きな声で見送ってくれる。

すごく暖かい気持ちになれる。事務所の皆が大好きだ、とこういう時に改めて思う。


雑誌の撮影は緑豊かな公園で行われる。テーマは「理想の女の子との公園デート」、らしい。

撮影は順調だった、のだが今朝私に期待と歓喜を与えてくれた日差しが弱くなる。空に雲がかかってきた。


カメラマンさんが自然光で撮りたいとのことで休憩も兼ねて一時撮影は中断。


「お疲れ、恋鐘。張り切ってるな」

「そりゃそうばい!撮影しっかり終わらせて、ストロベリームーン見るけんね!」

「そんな楽しみだったのか。撮影このまま行けば調子良いし早く終わって事務所で皆とお月見出来るかもな。」

「えっ...」


それは困る。いや、皆とお月見したくないわけじゃないし、むしろしたいけど...

2人で今夜の月は見たかった。けど仕事を疎かにして撮影遅らせるわけにもいかないし...

どうしたものか。ぐるぐると考えを巡らせる。


「恋鐘?どうかしたか?」

「ううん!なんでもなか!」


嘘だ。なんでもある。


ひとつ思いついた。仕事をしっかりやって、なおかつ2人でいられる可能性を。


「プロデューサー!ウチからの提案ばい!」

「おぉ、どうした」

「女の子とのデートなら、お日様出てる間だけじゃなくて夜とか夕暮れも撮るのはどう?」

「確かに、写真に幅が出るかもな...この後仕事も無いしなるべくいいもの撮りたいもんな。ちょっとカメラマンさんに言ってくる!」

「うん!」


ちょっと悪いことした気分。もちろん、いい写真を撮りたい気持ちはある。あるけど...

どうすればあなたと月を見れるのか、今はそれしか考えられなかった。

罪悪感で眉が重くなる。罪悪感で狭まった視界にプロデューサーが再び写り、重さは消える。

「カメラマンさんも乗ってくれたよ。ぜひやらせて欲しいってさ」

「やった!」


まずひとつ課題はクリアした。まさか張り切って仕事したら裏目に出るなんて...


気持ちも晴れたところで応えるように太陽も顔を出す。

スタッフ達が動き始め慌ただしさと共に撮影の再開を匂わせる。


椅子から立ち上がり、軽く伸びをする。

「それじゃあプロデューサー、行ってくるけん!」

「あぁ!行ってらっしゃい!」


その後は撮影を順調に進め、夕暮れ時のショットを撮ってカメラマンさんのOKが出たので撮影は無事終了。

私の提案がかなり当たったらしく、プロデューサーに笑顔で挨拶をしてその場は解散した。


「今日すごくいい撮影だったんじゃないか」

「んふふ〜やっぱウチの提案は大正解だったばい!」

「月が見えるまでまだちょっと時間あるし、何か食べに行くか?」

「そうやね〜。お腹すいたけん、何か食べたか〜」

「何かリクエストはあるか?」


うーん、何だろう...とふとあの言葉を思い出す。

離れていても同じもの。


「団子!団子が食べたか!」

「団子?別に構わないけど、夜ご飯にそれは少なくないか?」

「じゃあ団子と何か!」

「なんにも決まってないような...なんで団子なんだ?」

「離れていても同じもの、ばい!お月見って言ってたけん、多分事務所でみんなは団子食べとるやろ?」

「あぁ、果穂と話した時のあれか。今日は恋鐘の提案が冴えてるな」

「今日は、じゃなくて今日も、やろ〜?」

「そうだな、じゃあ買いに行ってくるから...」

「ウチも行く!」

「そうか、じゃあ一緒に行くか」


コンビニで軽くご飯と団子を買って、公園に戻る。ベンチに座ってサラダを頬張る。


「サラダから食べるんだな」

「野菜から先に食べると血糖値?が上がりにくい、って夏葉と智代子が言ってたけん!気をつけとるんよ〜」

「へぇ、そうなのか」


少し、無音になる。けどその無音さえ心地いい。あなたと同じ場所で、同じ時間を過ごせていることが。


公園の街灯が明かりを灯し始め、夜の訪れを教え、月が顔を出す。

まだ夕焼けの赤さが残っていて、月の赤みはよく分からない。


「団子、食べるか?」

「食べよ!」


コンビニで買ったなんでもない団子でもすごく美味しく感じる。団子が串だけになった頃、辺りは暗くなり月の輝きがより一層強く見えてきた。


「...綺麗だな」

「...うん」


なんかムズムズしてきて、勢いで立ち上がってしまう。


「わっ、どうした?」

「プロデューサー!ウチもっと近くであの月見たか!行こ!」

「えぇっ!?」


立ち上がらせたプロデューサーの手を取り、芝生が植えられた公園の上を走ろうとするが、


「恋鐘!その靴で走ったら危ないって!」


また忘れてた。今朝転びそうになったばかりだった。


「じゃあ脱ぐ〜!」

サンダルを勢いよく脱いで走り出す。プロデューサーが驚いた顔を見せたような気もするが、視線は丘の頂上。

プロデューサーの手を取って裸足で月に1番近い所へと走り出す。


手を繋いだら行ってみよう

燃えるような月の輝く丘に

迎えにゆくから そこにいてよ

かけらでもいい

君の気持ち知るまで 今夜僕は寝ないよ――


丘の頂上までダッシュでたどり着いた。


「わぁー!月が近か〜!」

「ハァッハアッ...そうだな...」


息切れするプロデューサーを見て少し笑う。どんなスピードで走ってもこの人は着いてきてくれるだろうという絶対的な信頼もあった。


「ねぇ、プロデューサー」

「なんだ?」

「ウチ、あの月に負けんくらいばり輝いちゃるけん」

「あぁ」

「誰から見ても輝く月みたいになるけん、けどプロデューサーには1番近いところで見てて欲しか...」

「当たり前だろ」

「うん!」


この感情を恋と呼ぶにはあまりにも稚拙すぎて。プロデューサーに対する感情は多分そんなものじゃない、と何となく思う。


あの月のようになりたい。綺麗に輝いて、手が届きそうで届かない。離れていても同じ私を見て欲しい。いや、見せつけてやるんだ。

絶対認めさせてやるから。絶対後悔させてやるから。覚悟しとって。

 

○あとがき

アンティーカでバンドネタがいくつかあったのでB'zの名曲今夜月の見える丘にの歌詞を散りばめたSSを書きました。SSを書いたのは初めてなのでかなり稚拙な文だったと思います。それでも読んでくれた方には感謝です。

恋鐘が父親とこんな関係だったらなというのとプロデューサーとは恋愛感情という一言では表せないような関係だろうなという願望をぶち込んだようなものになりました。

最後に、B'zのnewアルバム「NEW LOVE」が発売中です。是非チェックを。